科学的介護の話がどうしても気になっていた。
初任者研修は座学と実技が終わると1ヶ月間の実習がある。
デイに2日、残りは特養でショート2週間、入所2週間という感じだった。
以前書いたように、老人介護の利用者は女性の方が圧倒的に多く、異性介護を嫌がられることがあり、男性はあまり好まれないような空気があった。
しかし、実習で婆ちゃんの介護をしていると、意外に自分のキャラクターが受け入れられ、婆ちゃんが楽しくしてくれることが多かった。
そこで自信を持つことが出来た。
俺は障害者施設に内定をもらい悪いと思いながら、科学的介護の説明をしてくれた施設、つまり今の職場に見学に行くことにした。
でもまだこのときは採用されるかどうかも分からなかったので、自分の市場価値を確かめるくらいの軽いつもりでの見学だった。
介護施設はどこも人手不足で、おそらくよほどでない限り入職を勧められるが、俺も見学の後、簡単な面接を受けぜひ来てもらいたいが、採用までには3回面接があると聞いた。
今日がその1回目となりあと2回。
めんどくさ、と思いながら、次の約束をした。
そして、2回目の面接の時施設長面接となった。
「本当はあと一回来てもらうんですが、2回目の面接を飛び越えて今日最終面接となります。」
そう面接官の施設長は、履歴書や職務経歴書を片手に諸々俺に質問した後こう話した。
「あそこで責任者でやられていた方なら大丈夫だと思っています。厳しいところなので。」
ん?
知っているのか?
俺の前職は福祉関係とは全く関係がなく、おじさんをターゲットにする仕事でもないので接点もないはず……
……もしかして、家族が俺のことを知ってる?
施設長の名字を見て、一人心当たりのある元顧客がいた。
施設長はその場で俺に採用を伝えてくれた。簡単な条件面も伝えてくれた。障害者施設よりも上の条件を出してくれた。
俺はもうここでお世話になることに決めたのだが、既に内定をくれた施設がある。
「すみません、実は障害者施設でも内定をいただいていて、そこにきちんと挨拶をしたいので、もう少し待っていただけませんか」
施設長は大事なことだね、とおっしゃりあっさり承諾してくれた。
俺は面接後、前職の元部下に連絡して顧客情報を調べてもらった。
ビンゴだった。
ああ、あの人の家族なんだ。
俺は施設長から電話番号を聞いていてスマホに登録したのだが、自動登録でラインに出てきたため、勝手に登録しメッセージを送った。
先ほどはありがとうございました。
……もしかして○○さんのご家族でいらっしゃいますか?
一時間ほど後で返信が来た。
はい、その節は○○がお世話になりました。
どうも施設長は俺の元顧客である人に、どんな人か家で聞いていたらしい。
かなりいいことを言ってくれていたようで、その時点で俺を採用することは決めてくれていようだ。
縁というものは不思議だ。
どこでどう繋がるかわからない。
仕事でもプライベートでも、やはり人と人とのお付き合いというのは誠実でないといけないと改めて思ったのだった。