指輪を取り戻すという本来の目的を叶えられたはずなのに、自分の勘違いの片思いで直前にそれを止めた俺の手元には、鳴海ちゃんの部屋の合鍵だけが残った。
横縞な感情が生まれた。
前に書いた通り、俺は口にするのも恥ずかしい犯罪を更に重ねてしまった。
人の部屋の鍵を盗み侵入しただけでなく、合鍵も作った。これだけで十分に逮捕される案件だ。
俺はそれ以上のことをしてしまった。
ここまで書くと、大方の予想はつくだろうと思う。本当に俺は最低なことをした。
ただ、当時の俺は盲目過ぎて最低だと気づけなかった。
途中は先に述べた理由で割愛する。
「何でそんなことをしたの?」
鳴海ちゃんは泣きながら俺と電話で話した。
指輪を持っていられると俺は勘違いしてしまう。だから取り返そうと思った。
正直に思いを話した。
「そうだったの………」
俺は鳴海ちゃんの部屋の合鍵を部家のポストの中に入れて返した。
実はその後のことはよく覚えていない。
俺とちーは付き合っており、ちーがその事を知っていたのか、鳴海ちゃんとどんな話を最後にしたのかも全く記憶にない。
ただ、鳴海ちゃんはこのことを少なくとも表沙汰にはしなかった。
だから、俺は教員になれた。
今こうして書いていて、そら恐ろしいことをしたものだと自分に呆れてしまう。普通に新聞沙汰だ。
その後しばらくして、鳴海ちゃんには彼氏が出来た。
最終的にその彼氏と鳴海ちゃんは結婚した。
俺はちーと別れた。
というより、フラれた。
ちーには新しく好きな人が出来、俺から別れを告げた。
俺の部屋にあったちーの荷物を部屋の真ん中に集めて置いておいた。
会うと辛いので俺の留守中に取りに来てもらった。
「ごめんなさい」と書かれた手紙とともに、俺の部屋の合鍵が置かれていた。
俺は俺でちーの実家に預けていた車のタイヤを取りに行った。
お母さんが出迎えてくれた。
何か会話を交わしたことは覚えているが、内容までは覚えていない。
感謝も謝罪も出来なかった。
お母さんは最後まで俺に優しかった。
俺は、空っぽになった部屋を見て、泣きに泣いた。多分人生で一番泣いた。
ちーを失った寂しさに打ちひしがれた。
俺はちーのことなど好きではなかったはずで、鳴海ちゃんの代わりに抱いていただけのはずだったのに、いつしかちーは俺になくてはならない存在になっていた。
当時俺は教員の正採用の前に講師として小学校に勤めていたのだが、学年主任の先生に電話を入れ、泣きながら明日休ませてほしいと伝えた。
本当にアホで甘ちゃんだ。
学年主任の先生は、「分かったよ、明日だけだよ。また元気に来るんだよ」と言ってくれた。
実家に電話をした。
やはり兄に泣きながら電話を入れた。
「お前一人でいてもだめやろ。帰ってこい」
俺は実家に帰った。
兄はもちろん、父母の前でも俺は憚ることなく涙を流し、号泣していた。
ちーには何もしてやれなかったどころか、ちーを傷つけ、弄んだ。
ちーは俺のことを本当に支えてくれた。
今となってはこんな俺と別れてよかったと思うが、傷つけただけだという後悔は今もずんと心に重く残っている。
鳴海ちゃんとちー
幸せに暮らしていると思う。
ちーには会いたいなと思う。
会って謝りたいと思う。
ただ、昔のこと過ぎて家の場所も覚えていないし、当然連絡先も知らない。
1度Facebookで探してみたが、当てはまる人はいなかった。
本当に大学時代は、後悔ばかりた。
ただ、そんなほろ苦い経験が今の俺をつくっていることは間違いない。
鳴海ちゃん、ちー
本当にごめん。
直接伝えたかった。