俺が大学に復学してからも、鳴海ちゃんと付かず離れずの関係は続いていた。
と言うのも、俺はたまたま鳴海ちゃんと同じ学科の女の子とひょんな拍子から付き合うことになったのだ。
それが、「モスチキン」で書いたちーだ。
ちーはその時、年上の男と付き合っていたが関係が悪くなっていた。たまたま二人で遊ぶことになり、プラネタリウムを見に行ったりご飯を食べに行ったりしたのだが、その帰り俺のアパートでこたつに入りながらイチャイチャしていたら、ついそんな雰囲気になってしまって、最後までいってしまった。
それから付き合うことになった。
でも、俺が鳴海ちゃんのことを好きなことはちーも知っていて、俺は鳴海!と言いながらちーを抱いたり、ちーに鳴海ちゃんを盗撮してくるように頼んだりしていた。(結局撮影そのものはしなかったことだけはちーの名誉にかけて記しておく)
ちーはそんな俺を、全部受け止めてくれた。
ちーのところに遊びに行くと必然的にそこには鳴海ちゃんがいた。
俺に彼女が出来たことで、鳴海ちゃんも俺に対しては変なわだかまりはなく接してくれるようになった。
俺とちーは俺のアパートで同棲した。
二人で共通の財布を作り、お互いに1万円ずついれて、その財布をもって買い物に出かけることが一番幸せなときだった。
お互いの家族にも紹介し、俺はちーの実家に行くこともあった。
ちーのお母さんの勤め先でアルバイトをしたこともある。お母さんと俺がお母さんの車で会社に出勤し、一緒に帰ってきて俺がちーの家のシャワーを浴びる。そして家族揃って晩飯を食べる。そんな日々を過ごしたこともある。
もう結婚することは前提で、ちーの家が新しい家を建てるとき、設計図には俺の書斎が入っていたくらいだった。
俺は本当にたまたまだが、鳴海ちゃんと教育実習の学校が小中とも同じだった(なぜかちーは違った)。
ここで俺はちーという彼女がいながら、犯罪をおかしてしまう。
鳴海ちゃんへの未練がどうしても断ち切れなかった俺は、鳴海ちゃんから俺がプレゼントした指輪やネックレスを取り返したくなった。
鳴海ちゃんにいつまでもそれを持っていられると、俺は辛い。
それまでにも電話で「もう指輪とか捨ててよ」と鳴海ちゃんに頼んだこともあるが、鳴海ちゃんは捨てなかった。
俺は決行した。
教育実習中、鳴海ちゃんの鞄から鍵を盗み、合鍵を作った。
実習中は空き時間もあり、鳴海ちゃんがいない時間が俺の空き時間というのことも当然ある。
ある日に合鍵をつくり、また別の日に鳴海ちゃんの部屋に入った。
ドアの鍵を開けるときは、本当にドキドキした。
鳴海ちゃんの部屋に入るのも当然初めてだ。
俺は部屋の中を物色し、指輪を探した。
あった。
鳴海ちゃんは、俺の指輪やネックレスをまだそのまま持っていてくれた。
いや、ただそのままにしてあっただけなのだろうが、持っていてくれたと勘違いした。
俺は、指輪とネックレスを手に取りしばらく眺めると、そのまま引き出しにしまった。
取り返すことが出来なかった。
もし取り返してしまったら、本当に鳴海ちゃんとの関係が終わってしまう、いや、もちろん関係なんて何も始まっていないのだが、友達として遠くから眺めることも出来なくなってしまう気がしたのだ。