まずしたことは、母親への謝罪だった。
俺を見るなり、泣きながらよかった、よかったと言いながら体をポンポンと叩いてきた。
もう70をゆうに過ぎた母は一回りも二回りも小さい体になり、頭も白髪だらけになっていた。
俺のせいだ。
「しばらく一緒に暮らすでな」
兄は母にそう伝えると、母はそれがいいと言って俺の布団などの準備を始めた。
久しぶりに会う、寝たきりの父の顔も見た。
父は脳出血による血管性の認知症で何も理解できないのだが、俺は心の中でごめんな、と父に呟き手を握った。
何か食べるか、何か作ろうかと母は言うのだが、何も要らなかった。
釈放されてから好きなものを自由に食べることが楽しみだったのだが、不思議と食欲はわかなかった。
少しでも食べんと体に悪い、と母や姉に言われるのだが、本当に少ししか食べられなかった。まだ牢屋の中にいたときの方が食べられたくらいだ。
たまたまあった体重計に乗ると、逮捕前から15キロほど痩せていた。
驚いた。
簡単な食事を済ませると俺は銀行に向かい、お金を下ろした。
母が立て替えてくれた弁護士費用をすぐに返すためだ。
ありがとう、と言って封筒を渡すと母は要らん、あれはやった(あげた)んや、と言う。
ただ、それをありがとうと言って受けとることはお俺には出来なかった。
要らんのや、返すんや、と言って無理くり受け取ってもらった。
久しぶりに感じる家庭の温かさ。
これが本当に少しずつではあるが、俺の傷ついた心を癒してくれるのだった。