札幌(仮)というのはどこか具体的な地名にしたかっただけです。
札幌に来たのは18の頃。
俺は本当は地元の大学に行きたかったが共通一次(古っ!)で大失敗、2次試験の点数割合の高いところを探して受験、その一つが札幌大学だった。
大学生活はただただ切なかった。片想いの連続だった。
夢である教員になれ、さまざまな挫折と成功を体験し、最後は精神を病んだ。
自殺未遂もした。
真帆にも騙され、全てを失った場所、札幌。
これまでも時折来ることはあった。
が、逮捕後は初めてだ。
当時よく通ったラーメン屋に行った。
味噌とんこつが俺の好物だ。
とろとろのチャーシューと食べ放題のキムチ。
昔のままの濃い味で、本当に満足した。
それから大学に行き、最初に住んだアパートに行き、初めてバイトしたスーパーの跡地(既になくなっていたのは知っていた)に行った。
そして、そのとき本当にお世話になった店長の自宅を、記憶を頼りに探してみた。
あった!
当時の形のまま、表札もそのままだ。
家の電気は消えている。
しかし、表札は店長の名前のまま(恐らく今は80手前)だ。絶対に存命で、この家にいるはずだ。
時間は21時手前。
さすがにピンポン押すのは失礼だ。
明日手土産を持っていこうか。
だいぶ迷った。
やっぱり、止めた。
むちゃくちゃ会いたいのだが、会ってお礼を言いたいのだが、止めた。
俺は死んだんだ。
俺は、逮捕されたとき過去の自分を全て捨てたんだ。
やっぱり、ダメだ。
鳴海の住んでいたアパートにも行った。
2番目に住んだアパートにも行った。
少し変わってはいるが、ちゃんと昔の面影を残してそこにあった。
もう30年以上経つというのに。
札幌は、切ない。
来るんじゃなかった。
でも、来てよかった。
また来たいような、もう二度と来たくないような……
言うほどセンチメンタルな気持ちではないが、居心地はよくない。
ああ。また昔に戻りたい。
切なく、辛いことも多かったけれど、間違いなく希望ある未来しか見ていなかったあの頃に。