「今後金銭の返却は一切求めません。」
そう証文にして捺印し、県警の古森さん宛に送った。
妊娠して腹を大きくした真帆が一人で子どもを育てるということが不憫で、心配でならなった。
しかし、これも多分ではあるのだが、騙されていた。
真帆が妊娠をしていたのはこの眼で見たので事実ではあるのだが、真帆は結婚したようだった。
そのことをいつ知ったのが、どのように知ったのかは記憶が全くない。
しかし、警察とのやり取りの後、俺は校長に実はこういうことがあって、ということを報告していた。
それは警察が絡んでいるから、というわけではなく、人生相談のような形で話した。
そして、その年の大晦日、俺は2度目の自殺をした。
このきっかけも覚えていない。
真帆が結婚をしたと知ったからなのか、自分の仕事が行き詰まったからなのか、全く記憶にない。
ただ、衝動的ではなく、真帆との件や仕事がうまく行かず生きていても仕方がないとはずっと思っていて、当時流行っていた練炭自殺を真似ようと、練炭と練炭コンロを買いに行ったことは覚えている。
それまでは死にたいと思っていたのに、実際に練炭が手に入りこれで死ねるんだ、と思ったとき、急に冷めたというか、死に対する恐怖がわいてきた。
だから自殺は考えていなかったのだが、大晦日、多分その年の瀬の切なさが募ったからなのか、1回目とは違う山の中に行き、今度は医師から処方されていた精神薬をODした。
死のうとは思っていたのだが、怖くて練炭は焚けなかったので本気で死ぬ気はなかったのかも知れない。
ただ、こと辛い現実から逃げるために、リストカットするようにODしたのだと思う。
ただ、何となく死にたいのは死にたくて、俺は家族宛に遺書を書き、真帆のAVを胸に抱いた。
薬を飲んだ後、カーラジオで紅白を聞いていた。
俺は何でこんな大晦日を迎えているのだ、と思うと涙がじわっと溢れて出てきた。
そして、エンジンを切った。
寒い夜だったが、車の中だということと、多少着込んでいたのと、エアコンがさっきまでついていたこともあり、まだ寒さは感じなかった。
俺はいつしか、深い眠りにつき、気を失っていた。
(つづく)