夕食時間が終わった。
蓋も開けない弁当箱が回収され、俺はただ部屋をゆっくりぐるぐる回っていた。
何かしていないと気が狂いそうになる。
閉ざされた空間で出来ることは限られる。
今頃会社では俺について話し合われているのだろうか。
もしかして新聞やテレビに出てしまうのか。
絶望感にさいなまれながら、ゆっくりゆっくり時は流れた。
8時を過ぎると牢屋の鍵が開けられ、全員廊下に並ぶように促された。
そこの留置所では朝と夜の2回、点呼が行われた。
壁に向かって1列に整列し、一人一人順番に金属探知機を体に当てられ、手を開き、ズボンの裾をあげ、口を開けて中に何もないか確認される。
別の警官は部屋の中を隈無くチェックし、変なものを隠し持っていないか確認する。
64番、よし
そう言われると、廊下の突き当たりにある押し入れから布団を運び出し、部屋に敷く。俺は初めての新入りだったので勝手がわからず、警官が逐一案内して教えてくれた。
部屋に布団を運び入れると、再びガチャンと鍵を閉める音が響いた。
そして9時になると電気が消された。
俺の部屋は警官の詰所のちょうど前で、警官用の電気がついており、真っ暗になることはなかった。
布団に入ることが出来なかった。
止まったら発作が出そうだった。
俺は一晩中、部屋をぐるぐる回った。
つかれたら眠れるだろう。
そう思った。
寝られなかった。
何で俺はこんなことをしてしまったんだ…
強烈な後悔が襲ってくる。
俺は壁に頭を打ち付けた。
何てバカなんだ、
本当に多くの人に迷惑をかけたんだ、
お世話になった人を裏切ったんだ、
死にたくなった。
首をつる紐もなければ、ひっかける場所もなかった。
天井は高く、トイレのドアも上が斜めになっていて引っかけられない。
ドアノブもない。襖の手を当てるようなものがついているだけだ。
トイレも和式でさすがにケツこそ見えないが、しゃがんでも腹から上はガラス張りで警官から見えるようになっている。
死ねない。
ぐるぐる部屋を回り、いつしか部屋の高いところにある窓から朝日が差し込んできた。