弁護士面会が終わり、檻の中に戻ったとき急に発作が起きた。
いつものように外に出してもらった。
もちろん外と言っても高い壁と鉄格子に囲まれた味気ない屋上の中庭だ。
ただ、外の空気を吸えるのは発作を落ち着かせるのに本当に役に立った。
外で薬をもらった。
ついてくれたのは年配の冴えない感じの警官だった。いつも穏やかで、仕事に身が入っているのかないのか分からないような、窓際族のような人。
「大丈夫?」
そう聞いてきてくれた。
俺はこの冴えない警官に、自分の不安をぶちまけた。
こうやって逮捕されたらもう生きていけないんじゃないか。新聞にもでかでかと報道された。俺はどうしたらいいんだ。
そんな話をした。
「またやり直せるよ」
「世の中に逮捕された人なんてたくさんいる。毎日誰かが逮捕されて報道されている。そんな記事をいちいち覚えている人なんていないよ」
「就職するときだって自分から逮捕されたなんて話す必要はない。話さなければ誰にもわからない」
そんな話を聞いていて、俺はだんだん落ち着いてきた。
そうか、黙ってればいいんだ。
幸い、俺が逮捕されたのは実家とは違う都道府県。地元に帰れば俺の逮捕のことなど知っている人はいたとしてもごく僅かだ。
それなら何とかやり直せる。
檻に戻るといつもの優しい警官が来て「バタバタしてるけど、辛かったらいつでも声かけてください。今日は泊まりなので。」と言ってくれた。
俺は安心したものの、またなかなか寝付けず、0:00までぐるぐる部屋を回って歩いていた。
優しい警官がまた薬を持ってきてくれた。
おそらく5:00くらいに寝付けた。
普段は高い位置にある窓は夜は閉まっているのだが、この日はずっと開いていた。
優しい警官の配慮だろう。
本当にありがたかった。