眠れぬ夜が明けた。
7:00に起床、昨夜と同じように点呼を受ける。
いかにも犯罪者を意識させられるこの一連の儀式は凹んだ。
端の部屋から順番にスティック掃除機が渡され、自分の部屋を掃除するように指示される。
その後洗顔となる。
歯ブラシと歯磨き粉は支給、というか持参していた現金から差し引かれている。
タオルは貸してくれた。
そして小窓から差し入れられる朝食。
やはり蓋を開けられなかった。
書き忘れたが、昨夜ふたつきのカップを支給されており、お茶が毎食配られる。お茶は食事時以外でもおかわりは自由だった。
と言っても自分で汲みにはいけないので、牢屋の中からすみません、お茶ください、と警官を呼ぶのだった。
食事時間が終わると8時過ぎに運動という時間があった。
運動するわけではなく、鉄線には囲まれているが屋上のちょっとした広場に出て、髭を剃ったり耳掃除をしたり爪切りをしたり出来るのだった。
外の景色は塀で見えないのだが、空は見えた。それだけでも随分気が晴れた。
そこでは容疑者たちが外弁の話をしていた。
外弁とは、官弁の反対。
官弁は警察署から支給される弁当で、中身はなかなか悲惨。例えば朝御飯は警察官が作った味噌汁とご飯1膳にのりの佃煮と沢庵2切れ、といった感じ。
それだけでは足らないという人は、自分でお金を持っている場合に限り、出前を取ることができる。と言っても種類は限られており、大抵はカツ丼だった。
外弁の話を聞きながら、ちょうど爪が気になったので爪を切り、居心地が悪かったのですぐに部屋に戻った。
メガネをした白髪のベテラン警官が俺の部屋に来て、「気が紛れるなら本でも読むか?」と尋ねてくれた。
言われるまま俺は部屋を出て、廊下を曲がったところにあった本棚の前に連れていかれた。
一人3冊まで借りれるよ、と言われ、本を見てみた。漫画の単行本や小説が置いてあり、俺はなぜか海賊と呼ばれた男とサラリーマン金太郎を借りて部屋に戻った。
座ってそれに目を通し始めてすぐ、なぜかしんどくなってきてすぐに読むのを止めた。
全く先の見えない生活が始まり、俺は不安とストレスで気が狂いそうになっていた。