一通り説明が終わった後、弁護士をつけるか聞かれた。
俺は弁護はしてもらおうとは思わなかったのだが、どうしても会社に連絡したかった。
何となくクビになるとは思っていたから、寮の荷物を運び出さないといけない。
ここを出られたらすぐに引っ越しの手配をして出ていくので、しばらく荷物をおかせて欲しい、そう伝えたかった。
でも、それを弁護士がしてくれるのかわからなかった。
返事を躊躇していると、警官が「1回ならただで呼べるよ」と教えてくれた。
逮捕されてしばらくは身内でも会うことはできない。
会うのが許されるのは弁護士だけだ。
普段から弁護士と付き合いがある人はその弁護士に連絡してくれ、と言えば連絡してもらえるのだが、世の大半の人たちは普段から付き合いのある弁護士などいない。
そういうときのために当番弁護士制度というのがある。詳しくはググってもらえばいいのだが、俺はその弁護士に聞いてみようも思い、当番弁護士の請求をした。
いよいよ牢屋に連れていかれた。
一人部屋とはいえ、本当に居心地が悪そうな場所。
入った後、ガチャンと鍵の閉まる音が何とも重苦しかった。
メガネをかけたもうおじいちゃんの警官が毛布を持ってきてくれた。
「下が固くてお尻が痛くなるから下に敷くといいよ」と言われ、言う通りケツの下に敷いた。
すぐに夕食だといわれ、お重が鉄格子の下にある小さな窓から差し入れられた。
俺は蓋を取ることすらできず、全く手をつけなかった。
何も食べる気はしなかったし、腹も減らなかった。
「食べんのか」
警官に尋ねられたが、はいとだけ答えて俺は部屋の中をぐるぐると歩いていた。
腰を下ろしてじっとしていると、パニック障害の発作が出そうになるのだ。
少しでも動いている方が楽だった。