昼ご飯のあと、留置所の警官から、8日間の勾留延長が出たと聞かされた。
満期の10日は出なかったものの、残りが引き当たり捜査だけならば8日もかからないはずだ。
まだ何を調べようというのか。
もしかして、スマホの解析が進んで余罪がまた出てきたのか?
だとしたら再逮捕もあるのか?
まだ一週間以上もここにいなければならない苛立ちと、もしかしたらまだまだ出られないのかという不安が入り交じり、なんとも言えない気分になっていた。
二時半頃に呼び出され、俺は皮膚科に連れていってもらった。
前にも書いたが持病の慢性病があり、この勾留中にかなり悪化して見た目がなかなか酷いことになっていた。
見かねた留置所の警官がおそらく配慮してくれたのだろう。
また手錠にカバーをかけられ、一般の人に見られないように別の入り口から病院に入り、診察と投薬を受けた。
この頃俺は精神的にも安定していたので、泣き出すようなこともなく純粋に配慮してくれる警官に感謝を伝えることが出来た。
俺は逮捕された身だが、当時お世話になったT刑事さんはもちろん、留置所のほとんどの警官には心から感謝している。
留置所担当になる警官というのは、特に若手はエリートコースなのだそう。そこに入っている容疑者は今後も警察の厄介になる可能性が高いわけで、顔と名前を覚えるような意味もあるそうだ。
留置所担当の警官は直接事件の捜査に関わらず、俺たち容疑者の世話をしてくれるだけの人なので、基本的に優しかった。中には高圧的な生意気な奴もいたのだが……
ただ、名前は分からなかった。多分言わないように指導されているのだと思う。
病院の行き来にいわゆる娑婆の様子を車窓から見ることになる。
外を歩く人、飲食店の窓を拭いて働いている人、観光している人、ランニングしている人…… 全てが眩しく見えた。
檻の外にいるときは仕事に行きたくないなと思うことも多かったが、働けるということがこんなにも羨ましく感じるとは。
そして、ただ外を自由に歩けることがこんなにも羨ましく感じるとは。
日常、平凡な日々がこれほど貴重なものだとは思わなかった。
もう絶対に逮捕されるようなことはしない。
そう心に固く決めた。