暫くソファーに腰掛けていると、玄関先からN先生の姿が見えた。
その後ろに二人の姿が見えた。
俺の兄と、血の繋がらない姉だった。
この血の繋がらない姉との関係は話せばそれこそ長くなる。
でも、書き残しておきたいとは思うので、それは別の機会にしておこう。
正直、肉親には会いたくなかった。
俺はすぐに会社の寮に行って、謝って、取り敢えず荷物を引き上げたかった。
ここで兄が来ればまた話は面倒くさくなる。
俺と兄とは、あまり仲がよくなかった。
取り敢えず二人のことは見て見ぬふりをし、N先生にまずはお礼を伝えた。
無事に出られた、罰金80万だった、本当に支えてもらってありがとうと伝えた。
でも、N先生の表情は固い。
俺は逮捕されたことを肉親にはどうしても知られたくなかった。
しかし、釈放のためには身元引受人がどうしても必要になり、肉親の監視下に置くということが有利に働くと言われた。そのためには逮捕の事実を伝え、今後責任をもって俺のことを管理するという念書を書いてもらう必要があると。
そして、弁護士費用の着手金も知り合いに連絡がとれない俺にとっては、親に頼るより術がなかった。
今警察が持っている俺の財布からキャッシュカードを宅下げして、暗証番号を教えるから先生が費用を下ろしてもらうわけにはいかないかと頼んだのだが、それは無理だと言われた。
かくしてN先生は俺の実家に俺が逮捕されたことを連絡していた。
母は取り敢えず30万を急ぎ振り込んでくれた。最初はいたずら電話だと思ったらしい。そりゃそうだ、我が子が逮捕された、弁護士費用の立て替えてくれなんて話をすぐに受け入れられるはずもない。確かにスマホには俺が逮捕された次の日に母からのおびただしい着信履歴が残っていた。
母は高齢のために来れなかったが、代わりに兄が来た。その兄も実は癌や心筋梗塞、脳梗塞などを患い、かなり体は弱っていた。だから姉と一緒に来ていた。
N先生は俺が勾留されている間、兄と電話でいろいろやり取りをしていたようだが、俺の過去の過ちを聞いていて、俺に対しあまりよい感情を持っていなかったようだ。
確かに俺は過去、いろいろなトラブルをおかしていた。
警察の厄介になったことが実は前にも1度あった。
機を改めて話すが、俺はソープ嬢に入れ込んで、ストーカーとして警察に認知されていたことがある。
だからN先生は兄の話で俺はそういうどうしようもない奴で、病弱の兄に迷惑をかけ続けている人間だと捉えていたようだ。
まあ、そう思われても仕方ないとは思うが、俺には俺の言い分もある。
N先生に労いの言葉をもらった後、お兄さんがどうしても心配で会いたいというから黙っていて申し訳なかったがお連れした、と言われた。N先生には成功報酬も支払う必要があったので改めて会う約束をし、取り敢えずお帰りいただいた。
その後兄は俺にいろいろ絡んできた。
何を言い合ったかはよく覚えていないし、記録にも残していないが、一つだけは覚えている。と言うか、忘れられない。
おい、お前。姉に100万払え。
そう俺に言った。
ほら来た、こいつ、これを言いに来たんだ。
だから、俺は兄とは関係をほぼ絶っていた。