兄とはもともと仲が悪かったわけではない。
優しい兄だった。
俺の実家の裏には大きな川が流れている。
小学生のとき、屋根にボールを投げ上げて、落ちてくるボールをキャッチしながら一人で遊んでいた時だ。
ボールの落下点がずれ、転々と転がったボールは川に落ちていった。
時は11月。寒い時だった。
小さかった俺は、川に流れるボールを眺めているしかなかった。
たまたま外に出てきた兄にそのことを伝えると、兄は川下に向かって一目散に駆け出した。
呆然と後ろ姿を見守る。
曲がりくねった川下は次第に俺の視界からは消え、同時に兄も消えた。
何分たった頃だろうか。
兄はびしょ濡れになりながら、俺にほれ、と言ってボールを渡した。
こんな思い出もある。
ガードレールの上に兄と二人で腰掛け、手放しでバランスを取りながら遊んでいた。
兄が下へ降りるとき、たまたまだろうが俺の頭をつかんで勢いよく飛び降りた。
その拍子に俺は後ろに反り返りバランスを崩して落下、後頭部を石でうち、頭から多量の出血があった。
大した痛みはなかったものの、あまりの血の多さに驚いた俺はワーンと泣き出した。
最初は大丈夫か、と言って家から持ってきたちり紙で俺の頭を押さえていた兄だったが、血が止まらないのに意を決したのだろう、俺をおんぶして病院に連れてってやる、と駆け出したのである。
俺の兄とは二つ違い。
そんなにからだの大きさは変わらない。
金だって、保険証だって持っていない。
でも、子どもだからと言えばそれまでだが、兄はそんなこともお構いなしに走り出した。
このときもたまたま仕事から帰ってきた父がただ事でない兄弟を見て俺を車で病院に連れていくのだが……
俺は今でも兄が大好きだ。
本当に優しい兄だった。
でもなぜこんなに仲が悪くなってしまったのか。
そう、血の繋がらない姉が絡んでくる。
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また来年もよろしくお願いします。
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