次の日、俺はN先生の弁護士事務所へ向かった。
ちなみにN先生とは俺の弁護で30万の契約だったが、もう少し契約内容は細かい。
基本一審の契約で、仮に実刑(刑務所にぶちこまれる)にならなかった場合、10万の成功報酬を払うというものだった。
契約したときはそこまで詳しくなかったので別に気にも止めずサインしたし、前にも書いた通り俺は十分に元をとったと思うので別にいいのだが、児童買春の初犯で弁護士をつける必要はない。罰金刑で終わるからである。
ただし、余罪がたくさんあったり、児童買春で終わらず、児童福祉法や強制性交などに問われる場合は100%つけた方がいいし、相手との示談が見込める場合も不起訴を勝ち取れる場合があるのでつけた方がよい。
俺は無事に略式起訴に終わったため、成功報酬を払う対象になったわけだ。
(当然と言えば当然の結果で、弁護士をつけていようといまいと結果は変わっていないのでもったいないという向きもある。しかし、以前に書いた理由で俺は30万以上の価値を得たと思っている。)
10万を握りしめ、車をN先生の事務所まで走らせた。
例のごとく下道で行ったが、余裕を持たせるために早く出たので、予定よりもかなり早く到着してしまった。
金があればパチンコでも打つのだが、なかったので近くのショッピングセンターを探し、そこでトイレを借りた。
少しばかり腹が減ったので、中にあったスーパーでおにぎり一つと84円の水を1本買った。
立体駐車場に停めさせてもらい、そこでおにぎりをかじっていると電話が鳴った。
昨日登録したサイトからだった。
俺は事情を一部始終隠さずに話した。
児童買春で逮捕されたこと、
もう一度社会復帰してやり直したいこと、
介護の世界に興味があり、働かせてもらえるなら何でもやること、
正社員が希望であること、
こんな俺でも働かせてもらえるところがあるかどうか知りたいこと。
電話口の女性は逮捕という言葉を聞くと一瞬戸惑った様子であったが、俺の話を真剣に聞いてくれていたように感じた。
「わかりました。ちょっと今すぐには答えられませんので、改めてお電話してもいいですか?」
そう言われ電話を切った。
たかだか10分弱の時間、身の上話をしただけだったが、俺は少し前進した気分になり、気持ちが軽くなった。
食事を済ませ、暫く車で横になっていると、再び電話が鳴った。
さっきと同じ番号だ。
すぐにオンコールのボタンを押す。
「申し訳ありません、たかさんさん。いろいろ調べてみましたが、ちょっとご紹介できる案件は持っておりません……」
おそらく上司に確認をし、二つ返事で断るように指示を受けたもののすぐには折り返せず、少し間をおいてかけてくれたのだろう。
「分かりました、わざわざありがとうございました。」
俺の就職活動のスタートは、ものの半日で残念な結果に終わったのだった。
そうだよな、そんなに甘くはないわなぁ……
でも、俺の中で逮捕されたことを隠して就職活動するという道はなかった。
まだ始まったばかりだ。
そう自分に言い聞かせ、ぼちぼちいい時間になったので車を出した。
(つづく)