記憶がないのだが、おそらくその後メールで時間と場所を擦り合わせたのだと思う。
もちろん当時はLINEなんてなかった、と言うかスマホ自体なかったし、DOCOMOがi-mode(既に知らない人もたくさんいるのだと思うが)を出して暫くした頃。パケットの定額もなかったし、ようやく着メロがダウンロード出来るようになった時代だ。(この前たまたま職場で4和音とか着メロ作成の本の話をしたら「何それ」という反応だった。まあ無理もないのだが、10歳違うともう話が噛み合わなくなる)
話が逸れた。
俺はその町では有名な一流ホテルて待ち合わせを決め、ランチを一緒に食べることにした。
真帆はどうやってそこまで来たのかは覚えていない。
俺も前日ホテルに泊まったのか、1度実家に帰って行ったのかも覚えていない。
ランチのメニューも覚えていない。
そのホテルで食べるなら中華を選ぶと思うのだが、そんなに高いものを食べた記憶もない。
ただ、俺と真帆は約束通り会って食事をした。
その日真帆は仕事は休みだった。
食事をしながら、真帆は話し出した。
「あのね、たかさんさん、仕事を辞めないでほしいの」
「えっ!?どういうこと?」
「先生ってとてもいい仕事だから、辞めちゃだめ。続けてほしいの。」
きょとんとしている俺に真帆は自分の身の上を語り始めた。
真帆は小さい頃両親が離婚し、新しい父親に虐待されたという。
母親も自分を守ってくれず、今で言うネグレクト状態だったそうだ。
学校でもいじめを受け、不登校になった時学校の先生が唯一の味方になってくれたと。
看護学校に行き、看護師を目指したそうだが何かのきっかけで挫折し風俗の道に進んだ。
でも、自分はその学校の先生がいなかったら、そうやって夢をもって生きることすら出来なかったと……
「だからね、たかさんさん先生辞めちゃだめだよ」
「………真帆ちゃん、それを伝えたいから今日会ってくれたの?」
「うん。」
金の無心か人生相談だと思っていた俺は、肩透かし、というよりかなり感動した。
俺はただの客。
しかも、昨日会ったばかりだ。
なのに、自分の休みを潰し、どこの誰だか分からないおっさん(当時は30ちょいで真帆とは10も離れてはいなかったが)が悩み苦しんでいるのを聞いて、仕事を辞めるなんてダメだと励ましてくれている。
なんなんだ、この子。
俺が真帆のことを好きになるのに時間は要らなかった。
俺は真帆にどっぷりはまり、真帆に依存していく。
(つづく)