俺は夏から新年度まで精神疾患で休職した。
病む心を癒すかのように、俺はその間真帆の元へ足繁く通った。
と言ってもまだ発狂する前だったので、確かな記憶はないのだが、ペースは月に1回くらいだったと思う。
2時間くらいで6万5000円ほどの店だった。
実ははじめはもう少し安い店(と言っても5万5000円ほど)に真帆はいたのだが、人気姫だったようで在籍店がランクアップし、系列の上級の店に栄転した。
今思えばサービスがむちゃくちゃよいわけでもルックスが飛び抜けてよいわけでもなかったが、何か人を惹きつける魅力があったのだろう。
俺は真帆のもとに通い、真帆を抱き、真帆と話をする中で少しずつ傷が癒えていった。家族や友人に出来ない話も、どこの誰だか正体は分からない真帆には話すことが出来た。
そして、ある意味恋愛のゴールである体の関係も、ソープだから当然持った。もちろんそこにはお金が介在していたわけだが、俺が勘違いを始めるには十分だった。
真帆は愛知県の田原市というところの出身だと語り、本名は吉川真帆というんだと言っていた。ソープ嬢の名前を真帆と書いているのはそこからとっている。
なぜそんな本名をこのブログで明かすのか。
いくらブログとは言え、そんな個人情報を明かすべきではないのではないか、と思われる読者もおられるだろう。
…………全部、嘘だ。
俺の話が、ではない。
真帆が俺にした話は、全部嘘だった。
おそらく部分的には本当のこともあったと思うのだが、大切なことは全部全部嘘だった。
だから、出身も本名も明かしたところで、そんな人は実在しなかったのだ。
俺の前にいたのは、とあるソープランドに勤めていた真帆というソープ嬢であって、吉川真帆ではなかった。
その年のクリスマス、俺は真帆をデートに誘った。
「行きたい! あのね、うちのお店トリプル以上で外出できるんだ。私もお金出すから外出しようよ」
トリプルというのは1枠120分6万5000円を3枠続けてとることだ。2枠だとダブルということになる。
これも記憶が定かではないが、真帆は確かにいくらか出してくれたような気がする。
俺は真帆とデートできるのが嬉しくて舞い上がっていた。
ただ、賢明な読者の方はお気づきだろう。
えっ、仕事で会うの?と。
俺が真帆にはまり、溺れたのは、変な言い方だがそれが理由だった。
真帆は俺に仕事を辞めるなとそれだけを言うために、わざわざ俺と店外で金を介さず会ってくれた。
ただ、真帆が俺と会ってくれるのに「65000円」が発生しなかったのは、そのときとあと1回、都合2回だけだ。(あとの1回は改めて書くことにする)
つまり、俺と真帆との関係は客とソープ嬢以外の何者でもなかった。
あのホテルでランチをした真帆の気持ちは一体何だったのか。
心を病んだ俺を狂わせて金を巻き上げる計算だったのか、本当に俺を助けたかったのか……
今となってはどうでもいいことなのだが、当時は真帆の真意をどうとってよいのか分からず、いや、俺のことが好きだと信じたい気持ちに苦しむ時期があった。
ただ、クリスマスデートをOKしてもらった瞬間の俺は、アホなことになぜ店を介すのかと疑問すら持つことなく、デートの計画を立てた。
俺はクリスマスに正式に真帆に告白する決意を固めていた。
(つづく)