「○○という店の真帆さんという女性を知っていますか?」
「ネットにいろいろ書いてる?」
幾つか俺に質問をして来た。
俺はもちろんはいと返事をした。
そのことが犯罪になるとは微塵も思わなかったのである。
そして俺はこう啖呵を切った。
「悪いのはあっちなんで。何ならこちらからそっち(警察)の方に出向いて説明しますよ」
若さは時に普通なら乗り越えられない壁を越えていく原動力となるが、この時の若さは青さそのものだった。
執着することを愛することだと思い込み、こんなに真帆のことを愛しているのに、俺はただ真帆を愛しているだけなのに、何が一体悪いんだ。
本気でそう思っていた。
だから、警察に行くことなど怖くも何ともなかった。
「私がどういう人間か自分から身元を明らかにします」
そんなこと、警察はきっと調べあげていて電話をかけているのだ。
当時の俺はそんなことを考え付きもしなかったので、日時を約束し、本当に俺は警察署に出向いた。
警察署の取り調べ室に入るのはこれが2回目だった。
1度目は大学生の時オービスに写って72㎞オーバーで呼び出しを食らった時。さすがに初めての警察は緊張したし、多少恐怖もあった。
2度目は自分から出向いている。そして俺は何一つ悪いことをしていない。
胸を張り勇んで入っていった。
促されるままに椅子に座った。
そして、免許証を見せ、俺という人間がどういう名前で、どこに住んでいて、どこに勤めているか、全部自分から話した。
そして、自分がやってきたことと経緯を自分なりに説明した。
そして警察に「私はお金を返してほしい。お金さえ返してくれれば今後一切彼女と関わることはない」と話した。
警察は恐らく俺にストーカー規制法の警告を出そうとしていたのだと思うが、俺が自分から警察に乗り込んでいったことと、ことの経緯を聞いてもう少し両者から話を聞いてみようと思ったのだと思う。
その日は俺の話したいことを話しただけで、得に警察から注意を受けたりすることはなく家に帰った。
帰りに吉野家に寄った。
当時はデフレ真っ只中で、牛丼が280円と一番値が落ちた時期だった。
金のなかった俺は、よくソープ帰りに吉野家に寄り、牛丼の大盛りに温玉と味噌汁をつけて食べていた。それでワンコインでおさまった。
普段はインスタントラーメンかご飯にふりかけで食事をしていたので、その牛丼がかなりの贅沢だった。
その年の年末、俺は2回目の自殺未遂をする。
(つづく)