他人の下の世話などしたくない。
当然の感情だ。
しかし、他人に下の世話などされたくない。
これもまた真実だ。
排泄介助はこの理解に尽きると思っている。
俺自身も、介護の仕事を始めるときそれだけが不安だった。
俺に下の世話が出来るのか?
あまりの汚さや臭さにえずいたりしないだろうか。
気持ち悪くならないだろうか。
最初は寝たきりの人がパッドの中に失禁した便の後始末が本当に苦手だった。
お尻を拭くのだが、便がのびて汚れが広がるだけでちっともきれいにならないのだ。
先輩は瞬く間にきれいにし、次から次へと介助に入っていく。
年寄りはよく便秘になる。
運動不足になることや腹筋が弱くなることなど理由はいくつかあるのだが、便秘が5日以上続くのは望ましくない。
長めにトイレに座ったり、看護師が肛門診(肛門やその周囲をつつくだけで出る人もいる)や摘便(指を肛門に突っ込んで便をかき出す)をしたりして出すこともあるのだが、便が肛門の近くまで下りていないと意味がない。
そういう時はやむなく下剤を使用することになる。
ちなみに下剤を頻回に使用するのは健康に非常に良くない。うちの施設では本当に本当の最終手段だ。
ある寝たきりの婆さんがいた。
この人も便秘によくなる人で、下剤を使用するのだが、必ず水様便が多量に出てオムツの中が水様便で溢れ、お腹や背中まで漏れ出てくる人だった。
俺が10時にパッド交換のため部屋に入ると、水様便特有の臭いがした。
ああ、出てるな。
オムツを開けると茶色の液体で満たされ、お腹や背中にもびっしり着いていた。
(つづく)