そんな写真を撮り続けていると、怖さと同時に人の目が気になった。
応接室からは外の廊下が見える。そこを通る他の社員や出入りの業者にこの姿を見られるのはさすがに忍びない。
俺は刑事に何度も「寮ではダメですか」と懇願した。しかし「もう(逮捕状が)執行されているので」とつれない返事を繰り返すのみだった。
所持品検査を受けながら、いくつか質問を受けたが、この時間のことだけは何を聞かれたのかさっぱり覚えていない。
とにかく何て誤魔化そうか、この場を一刻も早く離れたいという一心だった。
「スマホはないの?」
刑事が俺に聞く。
スマホはオフィスの自席にある。
この中には見られたくないもの、つまりその時の盗撮動画が入っていた。
寮に置いてきたかもしれません、と答え一旦寮に戻ることを考えた。
すると刑事は、
「ああ、そう。じゃあ取りに行こうか」
と俺を連れ出した。
何だ、ついてくるのか、
まあ、今思えばそんなことは当然なのだが、俺の目論みはすぐに崩れた。
寮の部屋に戻りその場にはないスマホを探す振りをする。
もう諦めた。
「オフィスの机かも」
力なくそう答えると、再び刑事に付き添われオフィスに戻った。
このとき、手錠や腰縄をされなかったのは、今思えばありがたい配慮だった。
ああ、終わった。
オフィスからスマホを持ち出し、再び応接室に戻りいくつかの尋問を受け、今度はPCと当日着ていた洋服の差し押さえ。再び寮の部屋に戻る。
今度は刑事と一緒に上司もついてきた。
刑事は上司と何かを話している。
おそらく俺の容疑について、今後の見通し(逮捕→勾留)について説明をしていたのだと思う。
上司も呆然とした表情で刑事と話していたが、俺とは一切目を合わせようとはしなかった。
俺はドキドキこそ時間が経つにつれおさまったのだが、妙にその時喉が渇いたのを覚えている。
刑事に水を飲んでもいいですか、と聞くと承諾してくれた。
水道の蛇口を捻り、コップに半分ほどの水を入れ、口に入れた。
あれだけ喉が渇いていたのに、ゴクッ、ゴクッと2度喉を鳴らしたすぐ後、オエッと吐き出してしまった。
胃が受け付けなかった。
「この後警察署に来てもらって詳しい話を聞くことになるから」
「持っていきたいものはある?」
そう刑事は俺に聞く。
このときはまさか1ヶ月も身体拘束を受けるなんて、考えてもいなかった。