朝9時から夕4時まで。
カレンダー通りの日付で昼休憩の1時間以外はみっちり講義がある。
2ヶ月目が経つと実技講習も始まったのだが、長時間の座学はなかなか大変だった。
しかし、1ヶ月に及ぶ勾留生活を終え、心身ともにボロボロになっていた俺にとっては貴重なリハビリだった。
毎日同じ時間に起き、体を動かし(徒歩で通っていた)、人と会い、話すこと。
当たり前と言えば当たり前なのだが、教育訓練を受けていなかったら俺は家に閉じこもったままだっただろう。
仮にアルバイトなどを始めていたとしても、多分相当心身に負担がきて壊れていたと思う。
朝日を浴びながら、朝の新鮮な空気を吸って歩くのは、まずからだの調子を整えられたと思う。
そして人と会い、話す。
10名ほどの仲間がいたが、男は俺一人だったけれどみんないい人で孤独を感じることがなかった。
隣の席になったMさんは40歳そこそこの二児の主婦であったが、非常に性格がさばさばしていて、でも女性らしい気配りもあって俺は本当に助けられた。
洗髪の実習があったのだが、俺は発作が起きそうで無理だと話したら、Mさんは2回も(俺の分まで)実験台になってくれ、2回洗髪された。
それでも文句の一つも言わなかった。
そして先生方もいい人で、男が俺一人ということもありいじってくれたりして結構かわいがってもらえた。
下らぬ話をして笑う時間は、本当に俺の心を癒してくれた。
みんなで昼飯に出掛けたり、訓練が終わった後はみんなで居酒屋にも行った。
楽しかった。
心配していた民事訴訟や再逮捕もなく、いつしか俺は逮捕された辛さを忘れ、本当に介護士に向けての道を力強く歩み始めていた。
本当に幸せで、本当にラッキーなことだった。
食欲も普通に戻り、パチンコにも行くようになっていた。
逮捕前と大して変わらない生活に、気づかぬうちに戻っていた。
今、こんな時間に風呂に浸かりながらこれを書いているが、前科者の俺が本当にこの幸せを享受していていいのかと思うこともある。
そして、たまに仕事に行きたくないなんて生意気なことを思うようにもなっている。
ただ、そんなときは護送車で裁判所や検察に行ったときのことを思い出すようにしている。
窓から見る街中の風景。
店のウインドーを雑巾で磨く人を見て羨ましく思ったあの日。
外を歩ける自由。
働いて誰かのためになれる幸せ。
生意気な俺は、生意気だと気づいたとき、こんなことを思い出している。