介護には看取りケアというのがある。
特養は終の棲みかと言われるが、まさしく死の間際、命の危機という場面ではいくら高齢者と言っても救急車を呼ばなければならないし、施設で亡くなるときは事件性がないか確認するため警察が入る。
しかし、看取りケアを行える施設で、家族も同意をしている場合は積極的な延命治療を施さず自然に死を迎えることが出来る。
この場合、緊急搬送も行わないし、警察も入らない。もちろん回復の見込みがないという主治医の診断は看取りケアに必須である。
この仕事をして3年目、もちろん何名かのお年寄りを看取って来たが、初めて今晩自分の担当した人が亡くなった。
もちろんどのお年寄りも亡くなると寂しいのだが、やはり担当した方は思い入れもあるため、結構ショックを受けている。
興奮して眠れない。
既に看取りに入っていたので、いつ何が起きてもおかしくはないのだが、昼までは普通にご飯を食べていた。それが急変して亡くなった。
あまりにあっけない。
夕方吐血したとき、それほど長くはもたないと聞きはしたが、まさか数時間後に亡くなるとは…
吐血の後始末をして少し落ち着いたとき、部屋を覗いて頭を撫でたら、今までにないくらい大きな目を開いて俺の方を見てくれた。
もう話せなくなっていたので何の言葉もなかったが、あれがおそらくその方が俺へ最期の挨拶をしてくれたのだろうと勝手に思っている。
Sさん、本当にありがとう。
俺はSさんの担当で幸せでした。
最期の日に仕事に入れていてよかった。
死に目にはあえなかったけれど、帰宅していた俺はどうしてもお別れが言いたくて職場に行った。
顔は冷たくなっていたが、まだ手は温もりがあって、いつもの柔らかい手だった。
Sさんは、俺が担当でよかったですか?