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留置者の中にメガネをかけたモジャモジャ頭の声の高い30前後の若者がいた。他の奴らと親しげに話す様子を見て、俺は陰で美味しんぼの冨井副部長と呼んでいた。
冨井副部長とハゲのおっさん(これも留置者)の話し声が聞こえてきた。
同じ時期に留置されていたブラジルの若い少年が拘置所へ移動になったようだ。
彼はここにいる間ずっと英語の小説を読んでいて少年の時に一回、保護観察明けで一回警察のお世話になり、成年になりたててまた何かをやらかしてしまいここに入れられたそうだった。
冨井はそんなどうでもいいことをよく知っている。
冨井は冨井で今日10日間の勾留延長がなされ、それが済んだら今度は京都に行くことになるだろうと話していた。冨井は何か広域犯罪をやらかしたらしい。
俺は誰とも仲良くはならなかったので、遠くから聞こえてくる冨井たちの話を聞くでも聞かぬでもなく耳を傾けていた。
冨井はハゲに「慣れた?」と聞かれていた。「はい、いやいやもうお腹いっぱいですわー」と下らぬノリツッコミをしていた。
調子がいいだけのアホに感じていた冨井だったが、やはりこの生活は辛いのだと思う。こんなん多分いくらやっても慣れるものではない。冨井はここにある本はほとんど全部読んだといっていた。
なのに、犯罪者はなぜまた犯罪を繰り返すのか。
やっぱり寂しいんじゃないかな、多分。
俺だってもうこんなことはしないけど、生活が困窮したり投げやりになったら、どうなるかわからんもんな。
必要とされる人になる努力に加え、そうなれない人の受け皿を作る社会作りも大切だと感じた。