釈放されて1週間ほどして、前に書いた元部下の男が、もう一人の同僚を連れて会いに来てくれた。
寿司を土産に来てくれたのだが、まだ食の細かった俺は2貫ほど手をつけて満腹だった。
もう一人の同僚というのは元部下の部下になり、俺とも少しは付き合いがあった。しかし、性格があまりかわいらしくなく付き合いはするが心を許せる人ではなかった。
案の定、というかその同僚は俺を心から心配するというよりは興味本位で来た感じだった。
俺が職場に復帰したいと思っていたことを部下から聞いて知っていたようで、「とてもそんな雰囲気ではないですよ」なんて聞きもしないことを言ってきた。
まあ仕方ない。さんざん俺が小馬鹿にして来た人間だ。ここぞとばかりに仕返しを受けてもやむなしだ。
部下は気遣ってくれたが、やはり一人では来づらかったのだろう。
改めてまた誘います、と言ってくれた。
その後1ヶ月ほどして、本当に誘ってくれた。
今度は元職場から独立して今は自分で経営をしている人で、俺も仲良くさせてもらっていた人だった。
3人で居酒屋で会い、そこで逮捕されるってこんなに辛い、なんて話をしてみんなで笑っていた。
笑いながらではあるが、本当に死にたくなる、なんて話しもした。
すると、その友人は
「たかさんさん、もう死んだんですよ。昔のたかさんさんは。もう死んだんだから、あとは好きに生きたらいいじゃないですか。前に何があったとかはもう関係ないですよ、もう死んだんですもん。本当にそこで死んだと思って終わらせて、新しい人生を歩みましょう」
そんなようなことを言ってくれた。
死んだつもりで、とはよく言うが、もう死んだんだ、というのは自分にとって新しい考え方だった。
そうや、もう本当に死んだと思えばいいんだ。
俺は家に帰って、過去の栄光や表彰された賞状、写真パネル、そのとき使っていた名刺やノートなど、ありとあらゆるものを捨てた。
そう、俺はもう死んだんだ。
だから、過去の何者にもとらわれなくていいし、過去の栄光にすがることもしない。
俺は本当に生まれ変わる。
それまで生きてきたたかさんと、これから生きるたかさんは全く別の人物だ。
そう思うと、何か救われる気がした。
辛くなったら、この言葉を意識的に思い出すようにしている。
俺はもう死んだんだ。