自分から口座番号を聞いておきながら、完全に俺のことを無視した真帆に怒りがおさまらなかった。
俺はとあるソープのサイトの質問コーナーに、色恋営業はどこまで許されるのか、訴訟したら勝ち目はあるのか、という質問を投稿した。
俺には非難囂々のレスが溢れた。
俺はその一つ一つに反論し、そのスレッドは大変な盛り上がりになった。
そうすることで俺は何となく落ち着けた。
どこの誰だかわからない真帆に俺は為す術がない。
訴えようにも、本名も居住地も知らないのだ。
ましてやソープ店内での出来事、まともに取り合ってくれるはずもない。
そんなことはわかっていた。
「こんなところでいちいち反論してあなたは一体何がしたいのですか? 早く弁護士のところに相談に行くことがあなたのすべきことでしょう」
そんなレスがついた。
まともな人は見抜いていた。
そう、俺は一体何がしたいんだ?
同情されたいのか、訴えられるから頑張れと応援されたいのか、憂さ晴らしがしたいだけなのか……
非難溢れるレスの中に、俺の心中を慮ってくれたものもあった。
ホストに貢いだというそのコメ主は、辛かったし悔しかったけど、相手の支えになれたことを誇りに思っている。それを否定することは、その人を好きだったことも否定することになるから……
そんな内容だった。
俺は、真帆に依存していた。
本当に好きだったのかどうかと言われたら、それはわからない。
でも、真帆を守りたいと思った気持ちは決して嘘ではない。
そして、真帆と過ごした期間は、お金があってこその関係であることに違いはなかったが、楽しい日々だった。
それをそのまま俺の心の奥にそっとしまって、新しい人生をもう一度歩もう。
少しずつ、そんな思いが芽生えてきた。
当時、auがパケ放題のプランを初めて出したことをきっかけに、俺は携帯を変え、番号も変えた。
返金されることがなかった銀行口座も解約した。
これで真帆から俺に連絡してくる術もなくなった。
完全に終わったのだ。
地元の信金に俺は全て事情を話し、毎月少しずつ積み立てもすることを条件に、かなり安い金利で金を貸してくれた。借り換えによって俺は高金利の借金を一括返済した。
そして、7年か8年ほどで俺は借金を返し終わった。
この1000万ほど使った思い出は、借金ではなく俺の稼ぎで遊んだことになった。
今はもう真帆には何の感情も残っていない。
もう死ぬまで会うこともないだろう。
「私はソープ嬢だから、たかさんさんとは住む世界が違うの」
真帆の口癖だった。
今、真帆と俺は全く違う世界でお互いに何をしているかも知らず、気にすることもなくそれぞれの人生を生きている。
俺の中で大切な人ではないが、俺の人生を作った人ではある。この人抜きに俺の人生はあり得ない。
今でも、心の奥にそっとしまってある。
俺が死ぬとき、また思い出の中で真帆と会うのだろう。
(おわり)