いつものような朝を過ごし、9:30に検室(変なものを隠してないかなど、隅々まで細かく調べられる。一週間に一度あった)を受け、10:00に引き当たり捜査に連れていかれた。
引き当たり捜査は、よく交通事故の警察24時で見ることも多い。腰縄をつけられた容疑者が、周りを警官に囲まれ、この辺りで何があった、など実際の現場に出かけていって確認する捜査だ。これをして、供述に誤りや矛盾がないかなどを確かめるわけだ。
俺の場合は駅で会って車でホテルまで移動したので、駅の駐車場のこの辺りで会った、どんな会話をした、とか移動経路をたどりながらこの道を通った、どこを曲がったなどいちいち確認された。
ただ、土地勘がそれほどある場所ではなく、カーナビを頼りに移動したので、正直にそう答え、あまり覚えていないと伝えた。
本当は車から降りて指を指しながら写真を撮るのが普通だ。
ただ、この時もT刑事さんは優しかった。
別の刑事に降りるように促されたが、Tさんは「降りなくていいよ」と言われ、人通りが少ない時を見計らってハッチバックのドアを開け、部下の警官に外に回らせて、俺には車の中から指を指すように指示をしてくれた。
「早く早く」と部下に伝え、しつこく何枚も写真を撮っていると「もうそんなにいいわ」となるべく俺が人目につかないように配慮してくれるのだった。
T刑事さんは俺よりも年下なのだが、俺のような存在にでも敬語を使い、気遣いもし、本当に本当にいい人だった。
俺はこの人に逮捕されて本当によかったと思った。
逮捕されたのはもちろん嫌な思い出だし、アンラッキーなのだが、逮捕された時期や環境も、最悪のケースを想定すればいろんなラッキーがあったと思う。